作:虚空花(@morino_hana

 

声を聞かせて 第1話


声を聞かせて 第2話


声を聞かせて 第3話


声を聞かせて 第4話


 


声を聞かせて 第5話


 




「――なにそれっ、レトちゃん可哀想!」

 幼馴染の舞(まい)は丸みのある可愛い声で嘆いた。
 カルボナーラをまいたフォークは、色といい形といい彼女の巻き髪に似ている。
 大学近くのファミレスに舞を呼び出し、黎斗やナオさんのことを相談したもの――なぜか非難される私。
 困っているのは私の方なのに。

「だいたいさあ、そのナオちゃん先輩だかなんだか知んないけど、ちょっと怪しくない? 油断させといてガブーっていかれたらどうすんのよ」
「ガブーってなによ。むしろ黎斗が――――あ」

 黎斗に襲われたことは、伏せておこうと思ったのに口が滑った。
 カンの良い舞は、楽しそうに目を細める。

「レトちゃんも切羽つまってたのねえ。そりゃそうよね。こんな鈍感さん相手だったら、いつまで経っても進展しないし」
「何よそれ。――じゃあ、舞は黎斗のことわかってたっていうの?」
「もちろんっしょ。誰がどう見てもレトちゃんはあっちゃんにベタぼれじゃん」
「……変なこと言わないでよ」
「えー、人を好きになるのは『変なこと』? あっちゃんひどーい」
「そうじゃなくて……私は今までそんな風に考えたことなかったから……ものすごく違和感があるの」
「あっちゃんは卑怯よね。そんな風に思ったことなかったからって、逃げるのは反則だよ。きちんと向き合ってあげなきゃ」

 舞の言葉は、どこか冗談じみていて、中身はまっとうだったりする。
 だから舞の発言は、ダイレクトに私の心臓へグサッときた。

「……た、確かに……悪いと思ってる部分もあるけど……でもさ、いきなり襲いかかるのはひどくない?」
「そうでもしないと、気づかないからじゃない? あっちゃんのことだから、口で言っても流すっぽいし」
「……」

 言っては返されて、もうぐうの音も出ない。
 なんでも言いあえる幼馴染とは、恐ろしい。

「で、そのナオちゃん先輩への返事はどうすんの?」
「返事? ――あ、そうだった……」

 言われて気づく。
 そういえば、ナオさんにはまだ返事をしてなかったんだっけ。
 なんだかんだ色んな話をしたけど、そういうことが言える雰囲気じゃなかったし。
 今更な気もするけど、ナオさんは返事を待っているのだろうか?

「もう……どっちもやめてほしい」
「あっちゃんてば、人生最大のモテ期キタわねー」
「こんな複雑なのがモテ期なんてジョーダン! ナオさんに会ったらきちんと言わないと」
 ちょうど名前を出したタイミングで、スマホにナオさんからの着信。
 舞の目があったけど、逃げたら盗み聞きされそうなので、仕方なくその場で受けることにした。

「……はい」
『亜紀ちゃん』
「どうしたんですか?」
『窓の外見て』
「え? ――――あ。ナオさん!」
 窓越しにファミレスの外を見てみれば、道路を隔てた向こう側の歩道にナオさんの姿があった。
 車三台分くらいの距離があるのに、よく私を見つけられたものである。
 ナオさんは私に手を振りながら車を気にしつつ道を渡ってくる。

「へぇ、あれがナオちゃん先輩? ――ていうか、あの人の前ではあっちゃん可愛いコぶってるんだ? なんか気に入らなぁい」
「何言ってんのよ。舞や黎斗以外の前ではこうでしょ」
「ぶー」
 何がそんなに気に食わないのか、舞は口を大きく膨らませて私を睨んだ――かと思えば、白いもこもこのコートを羽織る。

「じゃ、あたし帰るから、ナオちゃん先輩と楽しく遊べば~」
「ちょっと、舞――」
 すっかりご機嫌ナナメの舞は、拗ねた顔のまま先に店を出た。
 突然舞がいなくなって狼狽えていると、入れ替わりでナオさんがやってくる。

「あれ? お友達は帰ったの?」
「……みたいです」
「向かい座っていい?」
「……どうぞ」
 黎斗が妙にナオさんを意識している手前、なんだか私までナオさんを意識してしまう。
 でも好きかどうかって言われると、それもよくわからないし――ここはハッキリ断ろう。

「あの、ナオさん」
 まだ飲み物すら注文していないナオさんに、私は勢いで切り出す。
「ん?」
「この間、ナオさんは……私のこと……その……」
「うん。好きだよ。亜紀ちゃんのこと」
 改めて真っ直ぐに言われて、顔から火が出そうになる。
 だけどここで恥かしがってたら、また言えないままグズグズになってしまいそうなので、今度こそ――と口を開く。

「ナオさん、ごめんなさい! あなたとはお付き合いできません!」
 ――やっと言えた。こんな感じで良かったのかな?
 深く頭を下げると、ナオさんの顔は見えなくて。少しだけ沈黙が降りた。
 頭を下げたまま辛抱強く待っていると、ナオさんがいつもより少し戸惑った声で言った。

「……ねぇ、亜紀ちゃん」
 ようやく声をかけられて顔を上げると、優しく笑うナオさんがいた――けど。
 なんだかいつもと少しだけ違う笑顔に見えて、もう少し言い方を考えれば良かった、なんて後悔していると。

「亜紀ちゃんは、今から時間あるかな?」
 思ってもみない言葉がナオさんから返ってくる。
「……え? 今からですか?」
「……キミの気持ちはわかったからさ……最後に……一緒に映画見てくれないかな?」
「映画、ですか?」
「ああ。失恋記念に……て、おかしいかな?」
 頭をかきながらちょっと照れた顔をするナオさん。
「どうしても、君と観たい映画があるんだ」
 ふいに、真面目な顔で見つめてこられて、私は少し考えた後――ぎこちなく首をたてに振った。