作:もり

ぬいぐるみかれし その1

ぎんじろうが自由に動いたり、話せるようになってもうすぐ二週間くらいかな。
 それまでも自分の部屋で、夜寝る前にその日にあった出来事とかをぎんじろうに話しかけてたから、たとえ動けるようになっても、違和感なんて感じなかった。むしろ、嬉しさの方が大きかった。でも、初めは、半信半疑だし、ぬいぐるみが話したり動いたりするなんんて、正直、ちょっと怖かった。それに、ぎんじろうの話す声が私が想像していたよりも若い感じでびっくりした。
 だって、私が生まれ時から一緒にいるし、その時すでに着物姿だったから、私が“ぎんじろう”って名前をつけたんだもん。三等身の手足の短い、ずんぐりむっくりとしたうさきのぬいぐるみだったし。


 日が経つに連れて、その“怖さ”だとかも消えていって、ぎんじろうと何気にない会話をするのが、とても楽しみになってた。ぎんじろうは、ごはんは食べないけど、和菓子が好きで、それを会社帰りに買ってかえるのも日課になった。買って帰る和菓子をお店で、ぎんじろうの顔や声を思い浮かべながら選ぶのも楽しかったりする。

 やっぱり、ぎんじろうは私を生まれた時から、私の成長の過程をずっと見てるから、とてつもなく心配性だし。この前だって、次の日の会議で使う資料の計算がなかなか合わなくて、残業して帰りが遅くなっちゃった日も、自宅の部屋のドアを開けた途端、
「こんな時間まで何をしとったんじゃ! まーた、居残りか。あれほど、数字は丁寧にかつ慎重に扱えといったじゃろ。計算が合わなくて焦っとったんじゃろ。それに、オマエさんのような、うら若き娘がこんな遅くに独りで帰宅しおって。何かあったらどうするんじゃ! ワシは…、ワシは・・・、うぅ…」
すると、ぎんじろうは、いきなり、リビングにあるテーブルの上に、胡坐をかいて、短い腕で目を拭った。
「もう…、ぎんじろう。泣かないでよ。大丈夫だよ。今日も、会社の先輩に送ってもらったから。心配しないで、ね。」
私がそう言うと、ぎんじろうは、さっきまで胡坐をかいて泣いていたかと思ったら、いきなりすっくと立ち上がり、こう言ったの。
「……会社の先輩? ああ。よく、オマエさんがにこにこしながらワシに話をする殿方のことかの。オマエさんの事をよく気に掛けておるようじゃがのう。うーん。あの殿方は……。まあ。ちらっとオマエさんにし写真を見せてもろうただけじゃ。中身までは、分からんがのう…。……。」
と最後まで聞き取れなかったけど、何かを言って、力なくまた、テーブルの上にへたり込んだ。その様子を見ながら、私は、カバンを置いてベッドに腰を掛けた。
「よくミスしたりする私を励ましてくれたり、どうすればよいかとかアドバイスとかしてくれる良い先輩だよ。」
「あくまで、ワシはその殿方が持つ、この、見た目の派手さに気をとられとるのかもしれんな。オマエさんの方が、日常的にその殿方を接するもんじゃから、中身まで感じ取れるのかもしれん…。ワシの言葉はあくまで“助言”であって、実際に考えて行動に起こすのはオマエさん自身じゃ。じゃから、ワシの言葉を深くまで信じこまんでも良い。」
ぎんじろうはそういうと、さっきまでへたり込んでいたキッチンのテーブルからテーブルの支柱をつたい、まるで登り棒から下りてくるかるかのように、するすると床まで降りてきて、私が腰掛けているベッドまでぴょこぴょこと歩いて来たかと思うと、おもむろにベッドサイドからふとんをよじ登り、私の横までやって来た。そして、
「ちょっと、持ち上げてくれんかの。」と言った。
私はぎんじろうを持ち上げた。すると、ぎんじろうは短い腕を精一杯伸ばして、私の頭を撫でてくれた。


 なんなんだろうな。
 最近、ぎんじろうがこう頭を撫でてくれる機会が増えてきてるような気がする。
 でも。
 嫌じゃない。
 その反対で、すごく落ち着く……。
 すごくあったかいの。


 その夜。
 私は、夢を見た。
 とても背が高くて、スタイルの良い男性が出てきた。
 だけどね、その人って、綺麗な金色の長い髪から長い耳がぴょんってあったの。
 なんだか、日本人って感じでもないし、どこか異国の人って感じかな。その上、何故か着物を着てるの。
 でも、その人の話す声は、とても好きなの。
 それにね。とても、穏やかで優しいの。
 ちょっと、ぎんじろうのそれに似てるかもね。
 それに、その人はとてもいい匂い、私の好きな匂いがした。
 その人に包まれていると、とても落ち着く。
 それでね、夜にぎんじろうがしてくれたのと同じように、私の隣りに座って、優しく私を見つめて、頭を撫でてくれたの。


 そこで、目が覚めちゃった。
 私って、寝ている間に見る夢なんて、起きたらすぐ忘れちゃうのに、その夢に限って細かいところまで覚えてる。
 

 ヘンなの。
 
 

という夢を、あれから二週間が経った明け方近くに、ワシが見てしまった…。
主人が思っていることが、ワシの夢に流れ込んんで来たのかもしれんのう。
そういうことは、たまにある。
うーん。
しかしじゃ。
ワシのえらいさんが言った規則にもしかしたら抵触してしもたかもしれん…。






つづく。