作:ドンタコス(@hanatarekko

 

終電までタイムリミット30分。もはや心理戦と化した、彼女とのラインのやりとりにも一層熱が入る。

オレの彼女、真帆はオレの家から2駅離れた所に住んでいる。同じ大学に通っているオレたちは、付き合って2年目だ。

互いに下宿しているため、週末はどちらかの家で過ごす。しかし、最近はレポート課題が大量に出されたと言って、真帆はオレの家に寄り付かなくなった。全くもって、面白くない。


『まほちゃーん、レポート手伝うよ』


ぶっちゃけレポートを手伝う気なんか、サラサラ無い。しかしオレも男だ。獲物を捕らえるために、きちんとエサをぶら下げなければ。


『あなたの口車には乗りません!』


さすが、2年の付き合いともなれば、オレの行動パターンも読めるのか。真帆の強気なラインについ笑ってしまう。

この間もレポートを手伝うという名目で、家に呼びつけたものの、真帆を見ていたらキスしたくなってきて、パソコンに向かう真帆を後ろから抱きしめながら首筋や肩なんかにキスしていたら、顔を真っ赤にして怒られた。あれ以来、オレの家ではレポートははかどらないと判断したのか、どんなに誘っても了解しなくなったのだった。

ならば、次の一手。


『おし!レポート終わったらちゅっちゅしてやろう』


意外と甘えん坊の真帆は、こういうのにきっと弱いはず。しかし、返事はまたもやつれない。


『はいはい、ちゅっちゅ』


とりあえず、真帆がオレのことを、なめくさっているということは分かった。ここでめげてなるものか、とにかく終電でもいいから、オレの家に来させるのが、今日のミッションなのだ。


『まほちゃん、実はカレー作ってあるんだ』


実は昨日作ったカレーが鍋の中にたくさん残っている。更に、炊飯器の中には炊きたてほやほやの白ご飯が待っているのだ。
オレは、たたみかけるようにラインを送る。


『ほっかほっかの白ご飯に、まほちゃんの大好きなカレー』


既読になっているものの、返事が無い。さては、真帆は今、スマホごしにウンウンもだえているだろう。カレーが大好きな真帆にはかなり、こたえるはずだ。


『カレーで一息ついたら、集中力も高まるね』


自分で文章を作っているものの、なんかのキャッチコピーのような文面に我ながら少し恥ずかしくなる。しかし、何となく今日は真帆に会いたい夜なのだ。真帆を抱きしめながら眠りたい夜なのだ。
そんなオレの気持ちを無視して、依然として既読無視が続く。


『まほちゃん、オレをもて遊ばないで、えっち』


段々と筆がのってきた。勝手に色々ラインを送りつけるのは、なかなか楽しい。


『おいこら、既読なってんぞ』

『覗き見が趣味とか、まほちゃんってイケナイ子だわ』

『あーカレーがオレを呼んでるー』


ここまで一気に送りつけると、やっと真帆から返信が来た。


『笑』


とりあえず、返信が来たのはいいが、この適当な返しが、オレの中の何かに火をつけた。こいつ、絶対今日は泣くまで抱いてやる。


『まほちゃん、ハーゲンダッツ。パンプキン。冷凍庫あるよ!』


ハーゲンダッツなんて、真っ赤な嘘だが、ちゃんと家に来てくれたら、家の近くのコンビニでおごってやらんこともない。真帆は『!』とだけ送ってきやがった。相変わらず返しが雑だ。
更に押しの一手。


『まほちゃんのパソコン疲れの肩に、マッサージもつけちゃう』


肩がこりやすい真帆は、肩もみというワードに非常に弱いのだ。終電まであと15分。そろそろ決着をつける。


『おまけに抱っこもしてあげよう』


時々びっくりするほど甘えん坊になる真帆には、きっと響くに違いない。
しかし、既読にならない。あいつが時々やる裏技で、面倒くさいラインは既読にならないようにして、次の朝に返信するというのがある。まさか、それを繰り出すのか!?


『おい、寝たんじゃねーだろーな』

『お!き!ろ!』

『まほちゃん!カレーが泣いてるよ!』

『ハーゲンダッツ食べちゃうよ!』


連続でラインしても既読にならない。終わった。ゲームオーバー。終電もあと3分で終わる。あいつの家から駅まで最低でも5分はかかるから、今家を出ても終電にはもう間に合わない。意図して読んでいないのか、本当に寝てしまったのか。

がっくりと肩を落とした時だった。

ピンポーンと、にぎやかにチャイムが鳴った。
慌てて、鍵を開けると、そこには少し蒸気した頬の真帆が立っていた。


「カレー食べに来てやった、あとハーゲンダッツも」


オレは「そうこなくっちゃ」と言って、真帆を抱きしめた。

こういう風に生意気口を叩いてしまう、彼女がかわいい。

ちょっかい出すのは、ある程度レポート終わるまで我慢してやろう。
抱きしめた真帆の髪は少し濡れていて、淡くシャンプーの香りがする。髪をかきあげて耳に口づけると、「ひゃっ」と言って、はたかれてしまった。
眉間にしわを寄せた表情も、間抜けでかわいい。ついオレはニヤニヤしてしまう。

彼女の服装を見ると、いつもジーパンのくせに、今日は丈が短いワンピースを着ている。チラチラと見える太ももがなんとも言えずに素晴らしい。

今日は長い夜になりそうだ。

オレはしめしめと舌なめずりをして、彼女を部屋に迎え入れた。