作:マリエ(@plankton0304

「う、ん……?」

ふと誰かに呼ばれたような気がして重たい瞼を持ち上げると、ぼんやりした視界に飛び込んで来たのは、床に散らばったスーツとワイシャツ、そしてテーブルに置かれたままの缶ビール。
背中にぴったりとくっついたぬくもりから聞こえてくる穏やかな寝息にゆっくり首を逸らせば、私を背後から抱きしめたまますやすやと寝息を立てて眠る彼の寝顔がすぐ側にあった。

(……そっか。私たち、あのまま眠っちゃったんだ……)

風邪を引かないようにベッドへ行った方がいいんだけれど、こんなに気持ち良さそうに寝ている彼を起こすのは何となく気が引ける。
そして、何より――

(ふふっ、寝顔かわいいな)

彼のこんな無防備な表情を見られるのは、彼女である私だけの特権。
すやすやと寝息を立てる彼を起こさないよう注意を払いながら、彼の腕の中から抜け出した私はルームウエアを身に付けてから寝室へと向かう。

昼間はまだまだ暑いけれど、朝晩は少し肌寒くなってきて、いよいよ秋がやって来たんだなぁ、なんてしみじみ思ってしまうのはもう若くない証拠なのかな?
知らぬ間に訪れた秋を感じながら、ふと窓の外に視線を移せば、見事な満月が澄んだ夜空にぽっかりと浮かんでいて。

そういえば、今夜はスーパームーンだって、朝のニュースで言っていたような気がする。
私は寝室から持ってきたタオルケットを彼の身体にそっと掛けると、そのまま窓を開けてベランダへと降りてみた。

「うわあ、すっごくきれい……!」

きれいな虫の音だけが響く漆黒の夜空に淡く輝く金色の満月。
こんな風にゆっくりと月を見上げるなんて、何年振りだろうか。
社会人になってからはそんな余裕もなかったから、いつも見ているはずの月がなんだかすごく神聖なものに思える。
それからしばらくの間、ただ黙って月を見上げていれば、不意に背後からあたたかいぬくもりに包まれた。

「こら!何も言わずに突然いなくなるなよ。びっくりするだろ?」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「まあな。腕の中の湯たんぽがいなくなったから、肌寒くなって起きた。」

耳元を擽る寝起きの少し不機嫌そうな声。
そのこそばゆさに思わず首を竦めれば、お腹に回された腕にぎゅっと力が籠められる。

「ベランダに何かおもしろいものでもあるのか?」
「うん。月を見てたの。今夜はスーパームーンなんだって!」
「ふうん?まあ、確かにいつもの満月よりはきれいかもな。」
「でしょ?あ、そしたら今から二人でお月見しようよ!お団子はないけど、確か冷蔵庫にアイスが入っていたような……」

すっかり目も冴えちゃったし、何よりもこんなきれいな月を見ないで眠るのはもったいないもんね。
そう思って一旦部屋の中へ戻ろうとするけれど、後ろから私を抱きしめる彼の身体はピクリとも動かなくて。

「ちょっと!私の話、聞いてる?」
「聞いてるよ。でも、今が何時かわかって言ってんのか?こんな遅い時間にアイスなんか食べたら、また太ったって大騒ぎするのが目に見えてるから却下。」
「う、」
「……それに、お団子ならここに美味そうなのがあるから必要ねえよ。」
「え?」

そう言うが早いか、いつの間にかパーカーの裾から侵入してきた彼の大きな手のひらが柔らかな膨らみに添えられる。
そのひんやりとした感覚に、私は思わず上擦った声を上げていた。

「ひゃあっ!」
「お、ずいぶんとやわらかい団子だな?」
「ちょっ……ここベランダ……!」
「……ん、知ってる。でも、お月見がしたいって言ったのはお前の方だろ?」

なんて意地悪く笑う彼を振り返って睨みつければ、すかさず塞がれた唇。
そのままひょいと身体を持ち上げられ、ベッドの上に放り投げられれば、カーテンを開け放した窓からまんまるな月が見えた。

「ねえ、またするの……?」
「……言っとくけど、お前が悪いんだからな?俺に満月なんて見せたりするからこういうことになるんだぜ。」
「え?どうして?」
「男はみんな狼だから。満月の夜はいつも以上にムラムラしちゃうってこと。」
「そんなこと、あるわけないっ……!」

そういうが早いか、私の身体に覆い被さった彼が、パーカーのチャックを口にくわえながらゆっくりと下ろす。
その仕種が妙に艶かしくて、ぞくりと全身が粟立った。

「……なんてな。ま、もちろん月もきれいだけど、月明かりに照らされたお前の身体の方がきれいだよ」
「……っ!」
「……愛してる」

そのまま胸の先端をパクリと口に含まれれば、甘い刺激が全身を駆け抜ける。
普段だったらカーテンを開けたままなんてあり得ないんだけど……今夜だけは特別だからね?

淡い月の光に照らされたベッドの上で、私は彼に与えられる熱を感じながら、そっと瞳を閉じたのだった――。