作:望月萌(@moe3m_

僕には姉がいる。

面倒見のいい自慢のお姉ちゃんで、僕はいつもつい甘えてしまう。

お姉ちゃんはそんな僕のことを「わがまま」と言ってからかうけれど、いつも優しく赦してくれて、なんだかんだでとても仲がいい姉弟だと思う。

そんなお姉ちゃんは、朝が苦手な僕の為に毎朝部屋まで起こしに来てくれる。
今日も僕の部屋のドアが開くのを、まだぼんやりとした視界の中で確認した。

その後、お姉ちゃんが入ってくるのが見えると、僕の目は一気に覚めるけど、いつも寝たフリをしてお姉ちゃんが声をかけてくれるのをソワソワしながら待つ。

 

「おはよー、朝だよ?」

 

そう言いながら、カーテンを開き、部屋中に朝陽が広がる。
その眩しさに、僕は目を強く瞑って、壁側に寝返りを打った。

 

「ねえ、起きなって」
「んー…あとちょっとー…」

 

ベッドサイドまで来て僕の身体を揺らすけど、僕はもうちょっと、もうちょっと、と繰り返す。
そんな僕に痺れを切らしたお姉ちゃんは、布団を掴み、一気に僕と布団を引き剥がした。

 

「起きなさいっ!」
「あー! 布団返してよー!」
「朝ご飯もとっくの昔に出来てるんだよ?」
「やだー、もうちょっと寝るー」
「もう、いつまで経っても朝一人で起きれないなんて、恥ずかし…!?」

 

お説教を始めたお姉ちゃんの身体ごと布団を引き寄せ、倒れこんだ身体を僕の腕とベッドで包む。

それから、お姉ちゃんが僕の腕から逃げ出さないように、ぎゅうううっと力を込めた。
いきなりのことに驚いたのか、お姉ちゃんのお説教も止まって一安心。

…したのも束の間、じっと大人しくしたのは一瞬で、お姉ちゃんはすぐに「コラー!」と怒りながら手足をバタバタと暴れ始めた。

「もー、お姉ちゃんなんだから、大人しくしなさい」

母親の言い方を真似てそう言う僕を、頬を膨らませながら、ギロリと上目遣いに睨む。
そんなお姉ちゃんを見ながら、僕の口角は自然と上がっていく。
「…何ニヤニヤしてんのよ」

へらへらとした僕の態度が気に食わなかったのか、お姉ちゃんは睨んだまま僕の脇腹をくすぐる。
「ちょっ、や、やめ…っ! はははっ…! く、くすぐった…!」
くすぐられるのが苦手な僕は、小さい頃からイタズラする度に、こうしてお姉ちゃんに制裁を加えられていた。

お姉ちゃんは手は動かしたまま、さらに強く僕を睨みつける。
この顔は降参しろ、って顔だ。
「ご、ごめんなさ、い…! ちょ、調子に乗りましたっ! 許、してくださいっ…!」

「ふふふ、分かればよろしい」
そう言って、僕の脇腹をくすぐる手を止めると、今度はクスクスと笑う。

僕がそんな様子のお姉ちゃんの顔を覗き込むと、お姉ちゃんは余計に笑った。
「ほんと、小さい時からくすぐられるの苦手だよね……ふふふっ…ははははっ…」
お姉ちゃんの笑いは、次第に大爆笑、というところまでヒートアップしていく。

きっと、小さい頃からの数々のくすぐられた時の僕のリアクションを思い出しているんだろう。
そんなお姉ちゃんの笑い転げる姿に、なんだか少しムッとして、僕はまた布団ごとお姉ちゃんを包み込む。

昔から知ってる、お姉ちゃんのふんわりした匂いと、あたたかい体温が僕に伝わってくる。
深く深呼吸して、さっきまでの小さなイライラはスッと溶けていった。
そして、お姉ちゃんとこんなに近くにいられるのが嬉しくて、腕に一層力が入る。
「ちょっと痛いってばー」

 

目尻に溜まった涙を拭いながら、お姉ちゃんは僕に抗議した。
涙が出るまで大爆笑するなんて、一体いつのことを思い出していたんだろう、と思い返してみるけど、自分では思い当たる節がなくて、途中で諦めた。
それよりも、もうしばらくこんな風にお姉ちゃんをぎゅっとしていたくて、抱きしめる言い訳を探した。
「…だって、手を離したらお姉ちゃんまた起こそうとするでしょ?」
そんな僕の無茶苦茶な言い訳を聞くと、お姉ちゃんはため息を一つ吐いた。

 

「もう、あと10分だけだからね!」

 

そう言いながら、しょうがないなと呆れた様子で優しく笑うお姉ちゃん。
僕だけに見せてくれる、この優しい笑顔が、世界で一番大好き。
だから、僕は今日もわがままな弟になってしまうのかもしれない。