作:カメ美(@midogame

学生時代に運送会社の引越し業アルバイトの仕事ぶりを買われ、入社を勧められ試験を受けたら運よく採用。

大学卒業後はアルバイト先の運送会社に就職することに。それから早数年。
俺はドライバーとして日夜街を走り回っている。
当然ながら運送会社のドライバーの勤務時間も休みも不規則だ。

休日は日頃の疲れを癒す為に一日寝ているなんてこともあるが、都合をつけては友人達と飲みに出かけたり交流も欠かさないようにしている。

そして、もう一つ欠かしたくないことが。それは異性との繋がりだ。

不規則な仕事柄、合コンの誘いが入っても参加できないことも多いし、時々出会いがあっても時間が合わずに進展しないまま消滅することが殆どだ。

そんな残念な恋愛事情の俺にもここ最近、気になる人がいる。

仕事の担当エリア内で週に2〜3回は必ず荷物の配送で訪れるとある企業の営業所。
そこでいつも伝票にはんこをくれる彼女。年齢は俺と同じ位だろうか。

ハキハキとしているけれど、目が合うとどこかはにかんだ表情が可愛らしい。
届けた荷物をどこに置いたらいいかと話し合っている様子もテキパキとしているが、でも俺が持って行った荷物によくぶつかったりと天然な部分も持っているようだ。

勿論、彼女の住んでいる場所や何が好きなのか、彼氏はいるのか?など俺は何も知らない。

でも伝票に押されている印鑑で苗字だけは分かっている。本当にただ、それだけ。

荷物の受け渡しだけとはいえ、週に何回も顔を合わせていれば顔見知りだ。
勿論、話はしたいとは常々思っているがお互い仕事中だ。

最近は「お届け物です」と営業所内に入ると、「こんにちは、いつもありがとうございます」と彼女からはにかんだ笑顔と共に言葉が返ってくるようになった。

そして「今日も暑いですね」とか、当たり障りのない天気の話もできるようになった。ほんの些細なことだが、俺にはとても嬉しい。
こんな世間話、他の訪問先でいくらでも交わしているというのに彼女との会話は新鮮なのだ。

そして、今日も彼女のいる営業所へと向かう。珍しく荷物の配送ではなくて集荷依頼だ。
いつものように挨拶をしながら中に入ると、入り口付近に段ボールが山積みになっていた。

「こんにちは、今日はこの荷物をお願いしたくて…」

出迎えてくれたのは勿論彼女で、制服も埃にまみれて首にタオルまで巻いて普段と様子が違っていた。

そういえば、棚の扉が開いたままだったり書類ファイルがデスクに山積みだったりとこれはいかにも引越し準備だ。そして彼女の口からその理由は告げられた。

「うちの営業所、実は来週で閉鎖されるんです。だから今は片付けの真っ最中で。
今日集荷をお願いした荷物も他の営業所に送るものなんですよ」

「えっ!閉鎖って…!」

俺は思わず大声をあげてしまった。
「隣町の営業所と合併することになって。
元々この地域の取引先も減っていたので、仕方ないんですけどね」

そう言葉を続ける彼女の表情はどこか寂しそうで。
俺はそんな彼女に気になることを率直に質問する。

「ここの営業所の皆さんは今後どうされるんですか…?」

「皆、隣町や他の地域の営業所に異動したりとバラバラなんです。私も隣町に行く事になって」

隣町は俺の担当エリア外だ。この営業所が閉鎖されるということはもう彼女には会えなくなる。

集荷依頼されたダンボールをトラックに積みながら頭の中ではそのことばかりがぐるぐると巡り、俺の焦る想いと比例してか額から汗がだらだらと流れ落ちてくる。

そう、これは夏の気温の暑さからくる汗ではない。

すると、最後のダンボールを運び出そうとしたところで彼女から呼び止められた。

「今日みたいな暑い日に沢山荷物運んでもらってしまってすみません。もしよかったらこれ、飲んで下さい」

いつものようなはにかんだ笑顔の彼女の手にはお茶のペットボトルが。ついさっきまで冷蔵庫に入っていたのだろう。水滴がボトルに滴り見た目にもとても涼しい。

「ありがとうございます」
こんな些細な気遣いがとても嬉しいと思い、受け取ろうとした瞬間、指先が彼女に触れてしまった。

ほんの一瞬だったのに俺の胸はどくんと大きく高鳴る。挙動不審になりそうな自分を抑え、平静を保ちつつペットボトルを受け取り足早にトラックへと戻る俺。

荷物を積み終えペットボトルを開け一気に喉へ流し込むと、冷えた液体が焦りで火照った体へと徐々に染み込んでいった。

 

それから三日後、俺は彼女のいる営業所へといつも通りに荷物の配送で訪れた。

だが、中に入ると彼女の姿はなく代わりに男性社員が受け取りのサインをくれた。

閉鎖間際なこともあり、室内もだいぶすっきりとしている。
用件を終え、トラックに乗り込もうとした時「こんにちは」と声を掛けられた。

振り返るとそこには日傘をさし、紙袋を持った彼女の姿が。用事で外に出ていたのだろう。
「あら、今日は…?」

「荷物のお届けで来たんですけどもうサインは貰ったので大丈夫です」

「そうなんですね。それじゃ…」

「ちょっと待って下さい!」

俺は営業所内に入ろうとする彼女を呼び止め、そのまますぐ近くにあった自動販売機のボタンを押した。

「あの…、これ…。この間、お茶をいただいたお礼です!」

適当にボタンを押して出てきたのは栄養ドリンク。それに気づいたのは彼女に差し出した後だった。
焦っていたとはいえ、ジュースとか紅茶とかもっと可愛らしいものにすればよかった。

そんなことはもう後の祭りである。

「そんな…、気を使わないで下さい」

「でも、ほんの気持ちなので…」

「それじゃ遠慮なく。ありがとうございます」

はにかんだ彼女の笑顔はやはり可愛らしい。そして俺の中に沸々と熱いものがこみ上げる。

「もうすぐここの営業所、なくなっちゃうんですよね。俺、その前に今日みたいな栄養ドリンクじゃなくて、もっときちんとしたものを貴方と飲みたいっていうか…、
色々話したいっていうか…。あの!もしよかったら、後で俺とお茶しませんか…?」

突然の、そして若干必死な面持ちの俺に彼女は勿論驚いた表情を浮かべていたが、それはいつものはにかんだ笑顔に変わり、そして彼女は頷いた。

 

それから月日が過ぎ、彼女のいた営業所は閉鎖され予定通り彼女は隣町へと異動となった。

だが、俺は相変わらず彼女の元を訪れている。

ピンポーン。あるアパートの一室のインターフォンを鳴らすと中から「どなたですか?」と尋ねる声がするので「お届け物です」と答える。

するとドアが開き、相変わらずはにかんだ笑顔の彼女が迎え入れてくれた。

俺達はあれから恋人同士の関係となった。あの日、勇気を出して彼女をお茶に誘った自分を何度心の中で褒め称えたことか。

俺は仕事としての荷物ではなく、彼女の好きなお菓子をこうして彼女のアパートを訪れる度に持参している。

「いつも気を使ってくれなくてもいいのに」

「だって俺達の出会いは君の会社に荷物を届けたのがきっかけだろう?だからこうして君の好きなものを届けるのって何だか気持ちが落ち着くんだよ」

「もう。それじゃ届け物がないと家に来てくれないみたいじゃない」

「届け物がなくても家に来ていいの?」

「当たり前でしょ…、んっ…」

拗ねた口ぶりだが、俺の大好きなはにかんだ笑顔を浮かべる彼女が可愛らしくてたまらなくて、俺は思わず彼女に口付けた。

もう、俺達は会うのに理由なんていらない恋人同士なのだ。そう改めて自分に言い聞かせながら…。